「細胞から環境水へと繋ぐスケール横断分析:
マイクロ流体デバイスで挑む物質動態の調査」

領域概要

 持続可能な開発目標 (SDGs) の一つに「海の豊かさを守ろう」と掲げられているように、私たちを取り巻く水環境の保全に向けて、具体的な取り組みの提案とその実現が求められています。本課題に対する具体的な解決策を導き出すためには、水環境中の「どこに」「なにが」存在・蓄積することで、生態系に「どのような」影響を与えるのか、を網羅的に調査するための計測技術が欠かせません。水環境中における「その場分析」は、保全に向けた詳細な調査を進めるために有力なアプローチとなる一方で、計測技術自体が未だに確立されていない課題を抱えています。
 本学術変革領域では、「分子を認識する機構」を化学センサに導入し、「細胞から環境水へと繋ぐスケール横断分析」をテーマに、3つの計画班が互いに融合することで達成される分析技術・知見によって、水環境保全に向けた課題解決案の提案を目指します。
 水環境で生態系に影響を及ぼす原因物質 (=標的種) は、目では認識できないサイズの「分子」であるため、分子サイズの認識材料 (=レセプタ) を設計する必要があります。設計・作製したレセプタを用いて、標的種の認識情報を可視化する計測技術を「センサ」と呼びます。
本学術変革領域で提案する「スケール横断分析」では、水環境中に存在する標的種が与える生態系への影響を調査するために、分子サイズのレセプタを実装した化学センサを用いて、細胞レベルから海洋スケールに渡る網羅的な分析を行います。
 本学術変革領域のロゴには、分子 (先端にある環状構造)、細胞 (赤い丸が中心となった円形の模様)、海洋 (ロゴの骨格をつくる青い波模様)、のそれぞれのスケール (中央の矢印) を横断する意味が込められています。

 本研究は、これまで環境中での現場計測に適用されていないナノ電気化学技術、分子認識技術といった先端計測技術と、新たに体系化される極限環境microTAS技術を統合することで、現在一般的に展開されている「1成分=1センサ」という現場計測技術の実用化フローを革新し、海洋のみならず、多様な水循環環境に存在する多種類の標的種を網羅的に測定しうる技術体系を確立します。本研究では、「水」に囲まれた日本独自の取り組みとして、革新的技術の水環境分野からはじまる社会実装を目指します。本研究構想の実現によって、新たな研究領域「水循環分析」の構想へとつなげることが期待できます。